糖尿病 治療の秘けつ「高齢者の糖尿病」
新たな血糖管理の目標
2016年5月、日本糖尿病学会と日本老年医学会は、糖尿病の高齢者がめざすべき血糖管理の目標を新しく定めました。一般成人は過去1〜2か月の血糖値の平均を示すヘモグロビンA1cで7%未満が基本の目標ですが、高齢者は一人一人の健康状態などに応じ7%未満、7.5%未満、8%未満、8.5%未満のいずれかを目標にします。つまり、高齢者は少しゆるめの目標にするのです。
低血糖のリスク
高齢者の目標をゆるめた最大の理由は、低血糖を防ぐことです。低血糖とは糖尿病の薬が効き過ぎるなどによって血糖値が下がり過ぎることを言います。高齢者は薬を分解する肝臓や、薬を排せつする腎臓の働きが低下するため、血糖を下げる薬が効き過ぎて低血糖を起こしやすくなるのです。しかも、自律神経や認知機能が低下している場合は低血糖に気づきにくくなります。高齢者が重い低血糖を起こした場合、心筋梗塞・脳梗塞、認知機能低下、転倒・骨折などのリスクが高まります。糖尿病の治療は高血糖を改善するために行いますが、低血糖も同じくらい避ける必要があるのです。
低血糖を防ぐには
低血糖を防ぐには、まず重い低血糖を起こしやすい薬を知っておくことです。インスリン製剤・スルホニル尿素薬・速効型インスリン分泌促進薬などがそれに当たります。これらを使っている場合、薬をいつも通り使っていても、食事を抜いたり、食事の量が少なかったり、仕事や運動で体を激しく動かしたりすると、血糖値が下がりすぎることがあるのです。
健康状態と薬で変わる目標値
高齢者の目標値は一人一人の状態に応じて設定します。まず認知機能と日常生活動作の自立度に応じ3つのカテゴリーに分けます。認知機能が正常で日常生活動作も自立している人はカテゴリー1です。認知機能に軽い障害がある人や日常生活動作が少し低下して買い物や食事の準備が自立してできない人はカテゴリー2です。認知症がある程度進んでいる人や日常生活動作が大きく低下して、服を着る・入浴・トイレなどの基本の動作もできない人はカテゴリー3です。持病が多い人などもカテゴリー3です。
さらに使っている薬に注目します。低血糖が心配されるインスリン製剤・スルホニル尿素薬・速効型インスリン分泌促進薬などを使っているかどうかで目標値が変わるのです。低血糖を起こしやすい薬を使っている場合は下限値も定められました。これより低い値になると低血糖が特に起こりやすいため、これより低い値は目指さないという意味です。
筋肉減少にも注意
高齢者は筋肉減少や筋力低下が起こりやすく、それが糖尿病を悪化させます。筋肉が減ると筋肉のブドウ糖消費量が減ります。そのため、血糖値が上がりやすくなるのです。糖尿病の原因には、すい臓のインスリン分泌低下と肥満によるインスリン抵抗性の2つが知られていますが、筋肉の減少は3つ目の原因とも言われます。そこで高齢者は筋肉を維持するための運動を積極的に行うことが勧められます。たとえばスクワット。安全のため、椅子を使ってゆっくり立ち上がったり座ったりします。筋肉量の多い太ももやお尻が鍛えられます。片足で立つ運動はより簡単です。転倒を避けるために机などの横で、左右の足でそれぞれ1分くらいずつ続けて立ちます。なお、運動は主治医に相談してから開始してください。